有事法制問題の分析(1)(02/4/5)
「有事法制(戦時法制」の法案化の作業がいよいよ詰めの段階に入り、3月20日に政府は与党3党に、内閣官房がこれまで検討してきた「案」を提示、与党側の要望により、4月10日をめどに法案をまとめることとなった。事態はいよいよ法案化へむけての重大な局面をむかえている。
ここでは、政府側の提出したペーパー・「武力攻撃事態における我が国の平和及び安全の確保に関する法制の整備について(案)」をもとに、マスコミ各紙の報道を加味して、現時点での問題点を検討してみたい。このペーパーは3月20日に開催された与党国家の緊急事態に関する法整備等協議会に提出されたものである。
内閣官房が整理したところによると、「有事法制」は次のものから構成されている――
○今国会に提出予定の法案
●いわゆる「包括法」案
●安全保障会議設置法の改正案
●自衛隊の行動に関わる法案(第一分類・第二分類)
●米軍の行動に関わる法案
○次回国会以降に提出予定の法案
●国民の安全・生活に関わる法案(第三分類)
●米軍の行動を支援するための法案
●国際人道法関係の法案(第三分類)
●など
○政府案には明記していないが提出可能性の高い法案
●ACSA(日米物品役務相互融通協定)の改正案
まず、「包括法」であるが、これはこれまで報道されてきた内容からすると、「基本法」と「プログラム法(目次法)」の中間的な位置をしめるもののようである。
だが、だからといって、決して軽いものではない。「国の基本方針」と「意思決定の仕組み」がここで規定されることとなるからである。「基本方針」ではどのような文言が盛り込まれるかは政府提出のペーパーでは全く不明であり、法案そのものを吟味しなければならない。法案の最大のポイントの一つである。
他方、「意思決定の仕組み」については、安全保障会議設置法改正案とワンセットで分析する必要がある。これについては、内閣官房のペーパーは「事態対処に係わる審議・決定機能を高めるため」としているだけであるが、報道を総合すると、以下の問題点がはらまれている。
(1)安全保障会議の構成メンバーの拡大
現在は総理大臣を議長として、以下の閣僚がメンバーである――内閣官房長官、外務大臣、防衛庁長官、国家公安委員長、財務大臣、経済財政担当大臣。これに新たに総務大臣、国土交通大臣を加えることとなる。これは第三分類に関わる官庁であることによると思われる。(なお、拡大会議を開催することなるとの報道もある)。制服のトップである統合幕僚会議議長はオブザーバー参加する。
(2)「専門的に補佐する組織」の設置
現状は内閣官房の安全保障・危機管理担当の副長官補室が事務局機能を担当しているが、常設の強化した事務局を設置することとなる。この組織の構成とあり方はまだ定かではないが、専門スタッフ配置とともに、安全保障会議のメンバー官庁の局長クラスの会議体が設けられると報道されている。重要なことはこれに高級幹部自衛官(多分、統合幕僚会議事務局長であろう)が参加することとなることである。
政府はアメリカの国家安全保障会議をモデルとしている(「沖繩タイムス」3月10日付)と報道されているが、この常設補佐組織によって、首相の権限が強化されることは間違いない。この点で政府が提出した「イメージ」図よりも、「朝日新聞」(3月20日付)の図解のほうが正しい認識を示している。(別掲参照)
(3)有事認定権限の問題
この点については、政府のペーパーは全くふれていないが、極めて重要である。「日本経済新聞」(3月22日付)が報じたところによると首相に有事認定権限を付与するが、その際、次の2案を軸に与党との調整に入るという――
(a)原則として事前承認で、特に緊急の必要がある場合は事後承認、
(b)対応措置の開始から20日以内に国会に付議し、承認を求める。いずれにしても首相の有事認定でことが始まってしまうことの危うさを警戒しなければならないであろう。
なお、このことと関連して指摘しておきたいことは、安全保障会議には国防事態(有事)の手前の時期・レベルで、重大緊急事態への対応ができることになっていることを見逃してはならないことである。湾岸戦争勃発時(「デザート・ストーム」作戦開始と同時)に海部内閣の下でかつて1度だけ、この重大緊急事態が宣言されて対応措置がとられたことがある。
(4)地方自治体への指示権限
これは「対策本部」の設置と関連することであるが、別掲の図のとおり、対策本部(本部長:首相)が地方自治体と一体となって、施策の実施をするようになっている。これを首相の指示権を行使することを可能にするのかどうか、政府提出のペーパーでもはっきりせず、報道でも両説があり、はっきりしない。「周辺事態法」では「協力を求める」との関係であるが、政府が災害対策との「整合を図る」としているのをとれば、「指示権限」が首相に付与されることとなる。これも法案の文言を注視しなければならない重要事項である。多分、指示権限を付与する方向であると思われる。
さて、個別法であるが、今回、新しく登場したのが、「武力攻撃の事態における米軍の行動を支援するための法制」である。この法案の提出は次期国会以降となっている。「米軍支援法」と呼ぶこともあるが、本質はNATOや韓国と締結している「戦時ホストネーション・サポート協定」の内容を国内法として処理するということであろう。これは全く内容が示されておらず、タイトルだけが公表されているので今後、その内容について注視しておく必要があろう。
その他の個別法については、これまで公表されてきているもので問題点はすでに指摘されているとおりである。
あと問題はこれに終わらず、「など」としていることである。まだこれ以外にも出てくるということをこのことは示している。
考えられることの一つは「領域警備」に関するものであろう。これは自衛隊法の改正ということになろう。
なお、小泉首相がソウルを訪問した際に、3月21日、ホテルで同行記者団と懇談した席上、「武力攻撃に体する備えと、9月11日以降のテロ発生に体する備え、不審船など不可解な行動に、どう対応するかが有事法制の基本的な考えだ。国民の関心は緊急事態にどう対応するかにある。そういう議論にも堪えるものを出さないといけない」と語っている。その直後、「読売新聞」(3月23日付)は政府は「大規模テロや不審船などの緊急事態への対応を盛り込んだ法案を今秋の臨時国会にも提出する方針を固めた」と報じた。
今回の内閣官房が提出したペーパーでは、法案の対象とする事態として、大規模テロ、不審船、サイバーテロはここからははずされ、他方、武装工作員(ゲリラ・コマンドウ)、ミサイル攻撃はここに含まれることとなった(「朝日新聞」3月16日付)という。事実、この日(3月20日)の会議の席上、大森内閣官房副長官補は大規模テロは武力攻撃事態には含まれないとの認識を示した(「産経新聞」3月21日付)。が、福田官房長官はこれらについて「今後の課題ということで検討を進めている」と述べている(「毎日新聞」3月21日付)。
最後にこうした「有事法制(戦時法制)」のとらえ方であるが、谷内外務省総合外交政策局長が次のように述べていることを重視する必要がある――
「安全保障面において日本が十分に国際社会のなかで役割を果たしていくためには、いろいろとやらなくてはいけないことがあるわけです。その一つの柱が「有事法制」です」(「国際問題」・02年3月号)。
自衛隊は新ガイドラインの下で、「周辺事態」対処、「テロ特別措置法」でのインド洋への展開など海外へ海外へと展開しはじめているが、「有事法制」はこうした海外での自衛隊のオペレーションの「足固め」の意味をもっているということである。
いま日米安保体制が大き変質しているのに連動して「有事法制」の法制化が推進されようとししている。このこと全体を把握することがなによりも肝要ではないだろうか。
02/3/26記
松尾 高志
この記事は平和委員会が発行する平和新聞(月3回発行)に掲載されています。
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