自衛隊の統合運用の検討の意味するもの(02/4/25)
マスコミ各紙はほとんど無視したようであるが、自衛隊に対して極めて重要な指示が中谷防衛庁長官によってなされた。
それは4月5日付で、統合幕僚会議議長、陸・海・空各幕僚長に出された統合運用の強化のための検討の指示である。
防衛庁の公表文によると「自衛隊の任務を迅速、効果的に遂行するためには、統合的見地に立った有機的な運用が必要であり、統合運用の強化を推進する観点から抜本的な検討を行う」というものであり、その検討項目は次のものである。
(1)統合幕僚会議と各幕僚監部のそれぞれの役割、これらと各自衛隊との関係に焦点を当てた統合運用態勢
(2)統合運用に必要な基盤整備
(3)統合運用の観点からの関係省庁等との有機的な協力関係
(4)改善事項を明確化するためのケーススタディ等による検証
ここで注目されることは、防衛庁があげて、陸・海・空の自衛隊の統合運用を本格的に推進することを開始するということである。また、それとともに防衛庁内部にとどまらずに、「関係省庁等との関係」までをも射程をおいた検討であることである。
なぜ、このような検討が今、開始されるのか。このことについてはいくつかの要因がある。
一つは、日米軍部間で新ガイドライン下での最初の「相互協力計画」が合意され、調印(サイン)されたことである。中谷防衛庁長官はこの計画についての検討は「エンドレスである」と国会で答弁しているが(参議院外交防衛委員会・3月19日)、この意味はこの計画が具体的な情勢・状況に対応した現実に実行可能なプランであるということである。つまり、いつでも必要ならば、「作戦計画」を公式に国家レベルで承認して、「作戦命令」とすることが可能な
ものとなっているということなのである。したがって、この作戦計画は変化する、その時々の情勢・状況にあわせて、補備・修正する検討作業がまさにエンドレス(終わりなく)に実施されることになるのである。
日米両軍のトップ・レベルで立案されたのであるから、自衛隊としては、その作戦を実施するためには自衛隊の統合運用の必要性がまさに現実の問題として課題となったのであり、また政府レベル(関係省庁等との関係)も具体的に何をしなければならないのかが判明したのであるから、この作戦を効果的に実施するにあたってのバックアップ態勢をどう構築するかが現実の課題となるにいたったということである。
次の要因としては、「有事法制」の法制化が現実の政治日程にのぼってきたからである。この法案が可決・成立されれば、「関係省庁との有機的な協力関係」も、各官庁が何をしなければならなのかを当該省庁と協議することが法律的に合法化されるのであり、政府としての体制がととのうのであることから、国会での「有事法制」の審議と同時並行して、そのことについての防衛庁内部での検討が推進されることになったのである。
さらに、アメリカ軍との関係という要因が背景にある。米軍は現在、軍のトランスフォーメーション(変容)の課題にとりくんできており、この一つの重要な柱が「統合運用」であることによっている。昨年のQDR(4年ごとの国防計画の見直し)でもこのことが指摘されている。米軍の変革のトレンド(流れの方向)は、統合運用の推進なのである。すでに、ドクトリン(教義)の分野では「ジョイント・ドクトリン」(統合教義)のマニュアルが作戦のほぼ全分野にわたって作成されつつある。幕僚(スタッフ)の軍事教育の分野でも統合作戦の教育課程が設定されて、高級幹部となるためには必須のものとなっている。
また、軍の統合運用の技術的基盤がIT (インフォーメーション・テクノロジー)であり、米軍はこの技術開発の先端を進んでおり、その軍事への応用・適用も他国の追随を許さないところまで推進しつつある。ペンタゴン流の用語でいえば「軍事革命」の推進である。
こうした米軍との共同作戦を遂行するために、どうしても自衛隊としても統合運用のレベルを一段と高める必要性にかられているのである。防衛庁が「情報革命」にのりおくれまいとして、この分野での取り組みを昨年度から本格的に強化しているのもこのためである。
別の側面からこのことを見れば、防衛庁がこの間、自衛隊法の改正をつみかさねることによって、統合幕僚会議議長の権限を段階的に強化してきているのもこのためだということなのである。もはや、現在の統合幕僚会議議長の地位はかつてのような各幕僚長と横並びのステータスではなくなっていることを認識しなければならない。
今回の統合運用推進の検討指示はこの方向をいっそう強めることとなろう。
「有事法制」法制化の推進が法律という形の軍のオペレーション(作戦)のためのソフトウェアだとすれば、この「統合運用」強化の検討作業は自衛隊を本格的に戦闘可能な軍事力として運用するための軍レベルのソフトウェアだということができよう。
かつて、70年代後半に「有事法制の研究」とともに、それと並行して自衛隊の「統合防衛研究」がなされたことを思い返す必要があろう。今回の段階はもはや「研究」のレベルではない。「実践」のレベルで推進されようとしているのである。
現在のジャーナリズムの担い手は企業記者が主流であり、かれらは知らないから書かないのではない。知っているのに書かないのである。「有事法制」の問題でもマスコミの質が問われることとなろう。
02/4/16記
松尾 高志
この記事は平和委員会が発行する平和新聞(月3回発行)に掲載されています。
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