「新世紀維新」と新ガイドライン路線(01/6/5)

 小泉新首相は所信表明演説で、「新世紀維新」を打ち出した。「維新」という言葉はおだやかでない。彼の頭の中はきっと、「明治維新」、「戦後改革」、そして今度は「新世紀維新」をやるのだという「歴史認識」なのであろう。中曽根元首相の夢みて果 たしえなかった「戦後総決算」を断行するのだと言いたいらしい。

 これを「安保」の観点から見ると、細川内閣発足当時を超える空前の内閣支持率をバックにニューファッション(「ファッション」 というのは意外に重要な政治ファクターだ)で、新ガイドライン路線を推進しようということとなる。

 ここでは以下の2点について、指摘しておきたい。

 第一は、防衛庁運用局運用課長の内閣官房入りである。しかも、 内閣官房副長官に直属する「内閣参事官」としての、首相のスタッフとしての政策「特命チーム」の一員としての官邸への進出である。これはこれまで首相官邸にダイレクトなパイプを持てなかった防衛庁にとっては、防衛庁史に記録されるであろう「快挙」である。防衛庁筋はこれで「独自の情報を他省庁に知られず、首相に直接報告できる」(「読売新聞」5月15日付)と手放しの喜びようである。

 だが、当面の本命は「有事法制」の法制化の推進である。小泉首相は5月17日付で、首相官邸に首相を機動的に補佐する「特命チーム」(5名)を発足させた。防衛庁から出向の「内閣参事官」の誕生はこの一環としての措置である。

 小泉首相は「大統領型」の政治スタイルを導入し、首相官邸の機能強化と指導性の強化を図ろうとしているのである。このため、これまでの4省庁(財務=旧大蔵、外務、経済産業=旧通 産、警察) からの出向者による「首相秘書官」に加えて、新たに5省庁(防衛、 総務、厚生労働、国土交通、文部科学)からの課長クラスの出向者を「第二の首相秘書官」として、内閣官房に側近として配置したのである。

 防衛庁から投入されたのは、自衛隊のオペレーション(作戦)を 担当する中枢のセクションの課長であった黒江哲郎運用課長(19 81年入庁)である。もちろん、「特命」の任務は「有事法制」の法制化に他ならない。この任務は森前内閣の末期にレールがしかれており、あとは事務方の密室・机上での作業をまさに実務的に推進することである。

 第二は、「集団的自衛権」問題が、現実の問題として「動きだした」ということである。最も注目されることは、5月8日に閣議決定した「答弁書」(土井たか子社民党党首の質問主意書への)の内容である。それは次の2行のセンテンスである――

 「他方、憲法に関する問題について、世の中の変化も踏まえつつ、幅広い議論が行われることは重要であり、集団的自衛権の問題について、様々な角度から研究してもいいのではないかと考えている」。

 これは内閣法制局が初めて、これまでのスタンスを変えて、「研究してもいい」とシフトしたことを意味する。根幹部分における深く静かな変化であるが、大きな変化への第一歩であることを見逃すことはできない。国会での「答弁」と閣議決定文書である「答弁書」とではその重さが違うことを銘記すべきである。

 この動きに連動して、防衛庁の防衛研究所が依託した「防衛戦略研究会議」(議長、渡邊昭夫・平和安全保障研究所理事長)が5月23日にまとめた報告書が、「周辺事態」における「後方支援を厳密な意味での集団的自衛権行使の枠外とする解釈変更が必要」と打ち出したことである。

 また、自民党国防部会は5月23日、集団的自衛権行使を禁じる憲法解釈の変更などを求めた提言の具体化に向け、「防衛政策検討小委員会」(浜田靖一小委員長)を設置することを決めている。

 他方、アメリカからも、相次いで、これに呼応する動きがはじまっている。米国防総省のスミス国防次官補代理(アジア・太平洋担 当)は5月16日にNHKのインタビューに対して、「もし日本が集団的自衛権の行使をめぐる(憲法)解釈を見直すならば、アメリカは歓迎し支持する」と公然と述べた(5月17日放送)。また、 柳井駐米大使は5月22日のワシントンでの記者会見で、ブッシュ米政権内で、小泉内閣発足後、日本の集団的自衛権行使に向けた憲法解釈変更に対する期待感が強まっているとの見解を示した(「読売新聞」5月23日付夕刊)。

 「維新」、「改革」を標榜する小泉新内閣の下、新ガイドライン路線の推進にアクセルを踏んで加速する動きが始まっている。これに、どう対処すべきなのか、ひとりひとりが問われる時である。   

 

               松尾 高志
2001.5.25記

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