![]() |
2000年度版「防衛白書」 ――「新しい皮袋」に「新しい酒」が (00/8/25)2000年度(平成12年度)版の防衛白書(正式タイトル=「日本の防衛」)が、7月28日の閣議で報告、了承された後、公表された。 自衛隊の前身・警察予備隊発足から50年目に当たる今年の防衛白書は、巻頭の見開き8ページのビジュアルな50年史年表グラフを掲載している。また、版形を従来のA5判から、A4判変形(横は同じで、縦を約2センチ程縮めている)の大判に拡大した。時期も防衛庁の本庁が六本木・檜町から市ケ谷の新庁舎へ移転したのと同じく、これまでの50年を清算して、「新しい皮袋」となった。 そして「新しい皮袋」にふさわしい「新しい酒」が今年の白書には注がれはじめている。 まず、全体の構成が「本来あるべき」防衛庁・自衛隊の軍事官庁・軍隊としての位 置づけをはっきりと打ち出す構成となったことである。 第一章「国際軍事情勢」、第二章「日本の防衛政策」までは昨年と同じであるが、その後の章構成に大きな変更がなされている。今年度版の第三章は「我が国の防衛と日米安全保障体制に関連する諸施策」であるが、これは昨年度版の第三章「防衛力の多様な役割と防衛庁の諸施策」と第四章「日米安全保障体制に関連する諸施策」を合体させて一つの章としたものである。重要なことは、ここで自衛隊の軍事力と軍事作戦、日米安保における周辺事態を含む日米軍事協力に関する内容だけを抽出していることである。第三章のトップに自衛隊のオペレーションをいきなり据えたことに、この意図がよく出ている。そして、次に建軍計画(中期防、予算措置)を置き、そして兵力問題を昨年版の第五章「国民と防衛」から抜きだして、その後の位 置に変更し、軍事産業育成についても格上げをしている(第三節「防衛力を構成する基盤――人的・物的基盤の充実)。昨年度版の第三章から削除されて後の章に移転したものは、大規模災害対処、緊急事態対処、PKO 、国際緊急援助活動、安保対話・防衛交流、軍備管理・軍縮であり、本来のオペレーション以外のものははずされたのである。また、昨年度版の第四章・日米安保からはずされたものも、オペレーション以外のもの――平素からの協力、米軍駐留円滑化の施策である。 そして、新しく第四章として「多様化する防衛庁、自衛隊の施策と活動」が登場した。ここには「新しい酒」の酵母菌が盛り込まれた。列挙すると――緊急事態対処(これがトップとなった)、ミサイル発射対処(新)、不審船対処(新)、原子力事故対処(新)、弾道ミサイル防衛(TMD)、NBC対処(新)、コンピュータ・セキュリティ(新)、自衛隊の運用上の重要問題に関する研究(新)。 これだけの「課題」が第一節を構成している。次いで第二節にPKO、国際緊急援助活動、安保対話、軍備管理がおかれた。 第五章「身近な自衛隊と諸問題への取組」は、以上の軍事力の根幹からみれば「余技」であるものの列挙となった。災害派遣、募集、基地対策、沖繩の基地対策(特SACO)などである。 このように第三章から第五章までの構成が、従来の構成と比較すると「本来のあるべき姿」を強くうちだすものとなっている。現行の日米安保体制を維持強化する立場からすると、きわめて「すっきりとした」構成となったのである。問題の位 置づけ、プライオリティをはっきりとさせた、ということである。 防衛白書の各論をみると、ここにも「新しい酒」が各所に盛り込まれていることが分かる。 「国際軍事情勢」では、各紙がそろって取り上げたように「中国問題」での記述の変化がある。 また、南北首脳会談後の「朝鮮半島問題」は、「冷戦終結後も基本的に変化していない」との認識は昨年と同じであるが、記述の量 は事態の進展にともない増加しており、また、新たに「NLL(北方限界線)と北朝鮮の主張する海上軍事境界線」と「北朝鮮を中心とするミサイルの射程」という、二つの「図」を初めて大きく掲載した。この図は文章よりもインパクトがある。全体としての防衛庁のこの問題についての情勢判断は以下の二つの文章で表現されている――「これらの(南北会談の)成果 を基礎として、南北が更に対話を継続し、発展させることによって、朝鮮半島の緊張が緩和する方向に向かうことが期待される。同時に、南北間の対話の進展が、朝鮮半島における軍事的対峙の緩和にどのように結びついていくのか、また、北朝鮮の核兵器開発疑惑や弾道ミサイル開発問題などの解決にどのように結びついていくのか、注意深く見極めていく必要がある。」 さらに、見逃してはならないのが「有事法制」の扱いと記述の変化である。位 置づけは昨年度と同じに自衛隊のオペレーションの記述のすぐ後に置かれている(昨年度版で変更がなされた)ことには変化はないが、オペレーションの記述の位 置変更(既述)との関係で、さらに重要視の度合いを強めている。そればかりではなく文章の変更がなされている。新しく加わったのは、「有事法制」は「必要なものであり、平時においてこそ備えておくべきものである」との記述である。変化したのは「取り扱いについて、今後検討していくことが必要」との記述から「先般 の与党の考え方をも十分に受け止めながら、今後、政府としての対応を考えていく」への踏み出しである。 今年度版の防衛白書は、「時代」がもうひとまわり大きく変わろうとしている中で、既定の「新ガイドライン路線」をなにがなんでも積極的に推進していくという防衛庁の姿勢をより一層、鮮明にしたものというほかない。 松尾 高志
|
|
|